閃光ばなし 開幕レポート

バイクが舞台を行きかう音、パトカーのサイレン、人々がケンカし、また笑い合う声、タイヤが焦げるにおい…。むせかえるような高度成長期の昭和の時代と、キャストのエネルギーが炸裂する。福原充則が脚本・演出を手掛け、安田章大(関ジャニ∞)が主演する舞台「閃光ばなし」が開幕した。

舞台は昭和38年の東京、葛飾区。のっけから安田演じる佐竹是政をはじめ、街の人々は警察と殴る蹴るの争いを繰り広げる。街には巨大な用水路が建設され、住民たちはわずかにかかった橋を通るために、大きく迂回しなければならず不便を強いられてきた。住民たちは自らの手で橋を作るが、違法建築として警察に壊されてしまう。

自転車屋を営み、若旦那と呼ばれる住民のリーダー役の是政は野性味にあふれている。絵に描いたようなヒーローではなく、シスコンで即物的でおまけに悪知恵が働く。しかし、納得できないものには真っ向から歯向かっていく性分だ。安田は「『こいつ、痛いな』 と思われてもいいから馬鹿正直に生きたい、ただの人、動物のようにありたいと願っていますから」とコメントしているが、その何か解き放たれたような、突き抜けた演技が光り、是政を魅力的にしている。

福原と安田はタッグを組み、演歌歌手を目指す主人公を描いた1作目の「俺節」(2017年)、ジャズに憧れる若者たちの群像劇の2作目「忘れてもらえないの歌」(2019 年)で、昭和の市井の人々がたくましく生きる姿をあぶり出してきた。福原は安田に対し「まだやれることがある、まだ使い切っていない」と語り、「閃光ばなし」はその3作目だ。

続いて、黒木華扮する是政の妹・政子も包丁を両手で振りかざし、警察と闘いながら登場。この妹も無鉄砲で向こう気が強く、あまりにストレートにズケズケものをいうので、客席から笑いが起きる。したたかで同性には好かれないタイプだろうが、黒木の抜群の演技力で説得力が生まれ、応援したくなってしまう。「そりゃないことが続く毎日!」と、是政と政子が苦労続きの半生を歌って踊るナンバーも入り、初共演という安田と黒木が息ピッタリに楽しく観客を乗せていく。

この街に本格的な橋がかからないのは、野田中(佐藤 B 作)が会長を務めるバス会社の利用者を増やすために、区議会議員の菊田(みのすけ)らが仕組んだことだった。菊田の「明るい未来があると(住民に)信じさせるんだ」というシーンに既視感を覚える。私たちも、希望に満ちたマニフェストを唱え、信じて選んだ政治家からどれほど裏切られてきたことだろうか。

しかし、どんな〝どん詰まり〟にあっても雑草のように蘇る兄妹は、エンジンをつけた改造自転車でバイクタクシー会社を起こす。「バイクタクシーで稼ぐんだ、一緒にやるヤツは一歩前に出ろ!」と是政が片足を大きく踏み鳴らし前に出るシーンでは、次々と住民がそれにならい、足音が重なり合っていく。
是政がバイクのエンジンをかき鳴らし、拳を天に突き上げる姿が神々しい。皆のパワーに渦のように巻きこまれ、あっという間に1幕が終わった。

2幕もその勢いはとどまることなく、物語は急展開していく。悪事を働かせ、是政たちを窮地に陥れて、どす黒さを増す佐藤B作の怪演ぶりが怖い。しかし、是政や政子、住民たちはしぶとく諦めない。福原は「遠くに向かって吠えている負け犬のような芝居なのかもしれない」と言う。皆、直情的でどん詰まりから抜け出したいという思いだけで行動し、そこには〝忖度〟や〝空気を読む〟といった、今、必要とされる感覚は一切存在しない。「一瞬でもこのままでいるなんて我慢できない。プラスでもマイナスでもいいからゼロから離れていたい」という政子のセリフが物語っている。

コロナ禍や異常気象、物価の上昇、不条理な戦争。私たちだってある意味、どん詰まりに来ているのではないかと感じる昨今だ。昭和はそんなに遠い昔ではないのに、何だか是政たちがまぶしくて、遠い。令和の今、「このままでいいの?」と観客を揺さぶる作品だ。

取材・文 米満ゆう子